今回はバスケットボールをはじめとするスポーツの現場において、声を出すということについて、触れたいと思います。
バスケットボールに限らず、スポーツの指導の現場において、よく聞かれるのが「声を出せ」であるとか「喋ろう!喋ろう!」といった声かけをしているシーンをよく見ます。
しかし、本質的に
- なぜ声を出すのか
- 何のために声を出すのか
と言う事は具体的に指示をされないまま、闇雲に声を出しているというシーンがよく見られます。
正直、
- なんで声を出すのだろう
- 声出す意味ある?
という思いを持ちながら、「やらされている感」の中で声を出している選手もいることかと思います。そんな選手がこうした疑問を解消できる記事、指導者の方々がそんな選手たちへの動機付けになる記事になります。どうぞご覧ください。
スポーツにおいて声を出す意味
科学的効果
シャウト効果
大きな声を出すことで、神経系における運動制御の抑制レベルを外し、筋肉の限界値まで力を発揮させる効果があります。要するに声を出すことによって、自身のパフォーマンスを最大限に近づける効果(シャウト効果)があります。科学的には、5〜6%程度の筋力の出力アップが期待できます。また、声を出すことで、一時的に呼吸が深くなり、パワー系の動作だけでなく、心肺機能を使うような動作でも持続力や集中力が増します。
スポーツの場面で、プレー中には様々な雑念が自分のプレーを邪魔しがちです。そんな雑念が自身の頭にブレーキをかけてしまい、肉体的には余裕があるのに、心理的な限界が先にきてしまいます。ブレーキがかかった状態では、思い通りのプレーはできない。逆にそのブレーキを外してしまえば、理想のプレーに近づくことができます。それを実現するのが、声の役割です。
脳内で身体にブレーキをかけてしまう、理性や思考をコントロールする前頭前野という場所に、声を出すことで働きかけ、そのコントロールを外すことができます。
例えば、
- ボクサーや格闘技の選手のヒットの瞬間の「シュッ」というような声
- 投擲種目で叫ぶような声
- テニスのサーブ時のうなり声
はその1つの例です。
スポーツ・オノマトペとは
上で挙げたような、
- 投擲種目での叫ぶような「アーーーーー!」というような叫び声
- テニスでのサーブの「うぅぅ」というようなうなり声
- 卓球でポイントを取ったときの「サーーー!!」いうような声
- バスケットボールの指導で使うような、「グッと踏み込んで、シュッと打つ」とシュートの瞬間を表現する
のを、スポーツ・オノマトペと言います。
「オノマトペ」とは、【擬態語・擬音語】という意味です。このスポーツ・オノマトペがスポーツパフォーマンスの結果、向上に繋がるというのは、上で紹介したように、運動生理学やスポーツ心理学の現場で研究がなされています。
精神的効果
2つ目が精神的な効果です。声を出すことによって、自分や仲間のモチベーションややる気、士気を高めることができます。
例えば、試合中の苦しい場面で一踏ん張りできる雰囲気作りができるということです。どうしても、苦しい場面や劣勢に立たされると、チームとして沈んだムードになりがちです。しかし、どんな内容の声であったとしても、ともにチームメイトが声を掛け合い、大きな声でお互いを励ますことができれば、苦しい場面でもう一踏ん張りできます。その結果、劣勢をひっくり返すムード作りができます。
バスケットボールの試合でも、流れのいい場面と悪い場面が、お互いのチームに交互に必ずやってきます。自分のチームの良い流れの時間を少しでも長く、悪い流れの時間を少しでも短くすると言う事はバスケットボールのゲームにおいて鉄則です。
特にミスが起きたときの声かけはチームスポーツにおいては、非常に重要です。ミスをしてしまった選手がいた場合、いつも近くによって、寄り添える場面ばかりではありません。そんな時に選手や周りの人たちが落ち込んだりする前に、大声で「大丈夫!大丈夫!ドンマイ!」と声をかけてあげることで、ミスした選手を孤立させません。そうすれば仲間がいるという安心感から、次への切り替えもうまくできるようになります。
また、自分に向けて、声をかけるセルフトークにより、自分自身に対しての自己暗示の効果が期待できます。試合前になると、様々な不安に襲われるかもしれませんが、声を出したり、自分自身に語りかけることで、余計なことを考えずに、自分自身のプレーに集中することができます。
実質的効果
これはプレーに直接関わる実質的な効果についてです。
チームプレーにおける意思疎通
バスケットボールはプレイをしていると、どうしても死角になる場所が出てきます。特にディフェンスの場面。ガードがボールハンドラーのディフェンスをしている時、背中側から来るセンターのスクリーンに気づかない場合があります。それを背中側にいるセンターが「スクリーン!右!」と声をかけてあげることで、それに気づき適切な対応をとることができます。
プレーの間のコミュニケーションの活発化も図ることができます。プレーの前、プレーの後に
- 「このプレイはどうだった」
- 「こうして欲しかった」
- 「自分はこう思う・こう考える」
といったことをどんどんしゃべることで、チームとしての共通の理解を深めるほか、選手と選手同士の思考を深め、意見の食い違いを埋めることができます。結果として、積極的なコミュニケーション能力の向上を図ることができます。
下のようなコミュニケーションを取るシーンはとても参考になります。
https://twitter.com/coachk_k/status/1233994987752148993
危険防止
スポーツのシーンでの接触を回避したり、相手や自分自身の存在をしっかりと認知させる声かけをすることで、声が危険の防止の役割になります。
円陣やベンチからの声によるチーム独自な雰囲気づくりや一体感
試合前の円陣でチームで大声を出して、掛け声をかけているシーンをよく見ると思います。これもチーム独自の文化で、これから自分たちは戦うぞという雰囲気やチームとしての一体感を生むことができます。
また、ベンチやスタンドからの応援が力になったことはありませんか。これも声を出すこと、声の力のひとつです。一体感のある応援や声が試合会場をこちらの雰囲気にしてしまい、流れを持って来ることができます。
意味のある声
ここまで様々な声を出す意味を紹介しました。実際に指導の場で一番大切にしなければならないのは、最後の【実質的効果】に結びつくような「意味のある声」だと考えます。
「なんで声が出ないのだろう?」
「なんで喋れないのだろう?」
と指導者は考えがちです。そこで短絡的に、
「声出そうよ」
「喋ろうよ」
では選手もますます声は出なくなるばかりか、喋ることができなくなります。選手に投げかけなければならないのは、
声を出すことによるメリット
- 上に書いたような内容
具体的な確認事項
- この場面、プレーで何を確認するべきなのか
- どんな考えを共有しなければならないのか
- 今チームがどんな状況でどんなアプローチが必要なのか
を選手に気づかせたり、確認させるような声かけや指導です。
声もスキルの1つ
最後に、声を出すと言うのもドリブルをついたり、パスを出したり、シュートを決めるのと一緒で、1つのスキルです。その必要性を感じることをできなければ、声を出すということの実践にはなかなか繋がらないと考えています。1つ1つ声を出す必要性や意味を指導者が選手自身に落とし込んでいくことで、活発な声が溢れる、コミュニケーションあふれるチームづくりに繋がります。
ぜひ今回紹介したような内容を、自身のプレーや指導に生かしていただければと思います。