育成年代の特徴
育成年代の指導をしていると必ずしも、試合に出ている5名が全員同じ能力で全てのプレーを満遍なくできるというわけではありません。特に部活の指導の場面では、高校年代においても、このような実情がどの現場にもあるのではないでしょうか。
もちろん育成年代において、全員の個々の能力をあげ、世界に通用するプレーヤーを育成することが理想です。しかし、それでも目の前の試合はやってきます。試合に勝利することで学べることも多く、その特定のピークに合わせ、チームを構成していくことも非常に重要であると考えます。
また、初心者の選手がチームに複数人存在するようなチームやスタートのメンバーにそういった選手を出場させなければならない状況のチームもあるでしょう。
強みを生かし、弱みを顕在化させない
前提にある考え方として、チームの強みを最大限に生かして、弱みを最小限にするということです。そのことを頭に置いた上で、3つのチーム作りのコツを解説します。
選手の特徴を分析する
1つ目は自身のチームの選手をしっかりと分析することです。チームに10名の選手がいるとします。バスケットボールの技能はもちろんですが、運動能力や性格、モチベーションの有無なども含め、分析をします。
例えば、以下のような項目です。
- 足がめっぽう速いor幅はある
- 跳躍力だけはあるorない
- シュートだけはピカイチor
- ハンドリングが上手or未熟
- 声が出る
- 武器を身につけさせる
- 目立つ場面が好きor嫌い
- ディフェンスが好きor嫌い
などです。得意なことも苦手なこともどちらもしっかりと分析することで、それらをどう活かすか、どうカバーするかということを考える要素になります。
武器を身につけさせる
上で分析した内容に合わせて、それぞれの選手に武器を身につけさせます。
例えば、ハンドリングが苦手な選手に対して、自滅しない程度の最低限のハンドリング技術を身につけさせるのと同時に相手の脅威となる武器を身につけさせます。コーナーからのキャッチアンドスリーポイントシュートやディフェンスなどです。
武器になりやすいものとしては以下のものが挙げられます。
スリーポイント
距離がある程度固定されており、練習しやすい。また、チャンスメイクしてもらったものをキャッチアンドシュートで打つといった単純なプレーに繋がりやすいため。
リバウンド
跳躍力を生かしたり、シュートやパスなどの動きが苦手でもシンプルな動きから武器にしやすい。
スラッシャーとしての役割
圧倒的な走力を生かし、走り出すタイミングをしっかりと覚えさせることで、速攻の先頭を走り、いち早く相手のゴールへシュートをねじ込む選手を目指します。
スクリーナーとしての働き
機動力はないけれど、幅があるような選手が向いています。自分でチャンスはクリエイトできなくても、スクリーンからチャンスを作ってもらい、それを生かすようなプレーを反復することで、相手の脅威となります。
ピックアンドロールからのチャンスメイク
目立ちたがり屋の性格の選手やボールを持ちたがる選手に対して、オフボールの動きを教えるのと同時にその性格を逆に生かして、むしろボールを持たせるというパターンです。ピックアンドロールからのチャンスメイクのパターンを反復すること、リバウンドからのファストブレイクでは、常にファーストレシーブをさせるなど、ポイントガードとしての自覚を持たせることです。
ディフェンスのスペシャリスト
オフェンスのあらゆる動きは苦手でも、ディフェンスなら相手の選手を苦しめられるという選手はいるはずです。わずかな時間でも、スタートのメンバーが休憩できるということは、非常にゲームを展開する上で大きなことです。相手チームのキーマンにフェイスガードさせるなどのディフェンスのスペシャリストとしての役割も非常に大切です。
試合終盤での秘密兵器
試合の重要な局面に、投入できる強いハートの持ち主もチームには意外といるものです。長い時間出したら、あまり目立たないけど、短い時間に集中した力を発揮させるというような選手がいるとチームは心強いです。
誰より大きな声
ベンチワークにおいても、誰よりも大きな声でコートに指示を送ったり、声援を送る選手は非常に重要です。ベンチリーダーとしての役割を持たせることで、選手も生き生きと試合に臨むことができ、しっかりと試合に入っている選手は、いざ、試合に出ても力を発揮できます。
誰よりもハッスルする
どんなに泥臭くてもチームのためにルーズボールを必死に追ったり、ハッスルプレーを前面に出してできることは非常に重要です。こういうプレーはチームにチャンスを与えるだけでなく、チームに活力や勇気を与えます。
武器を組み合わせた戦術を練る
ここからは上の2つで分析した特徴と身につけた武器をヘッドコーチが組み合わせていく段階です。現代のバスケットボールにおいては、大きく3つのポジションがあると言われています。
現代のバスケットボールの3つのポジション
- ハンドラー
- ウイング
- ビックマン
の3つです。この3つのポジションにしっかりと分けて考えることで、シンプルな役割分担と武器の生かし方の明確化が図れます。
ハンドラー
ピックアンドロールからチャンスをクリエイトすることができるのが、ハンドラーです。ボールを持っているところから、チャンスをクリエイトする意味で、ボールハンドリングに長けている選手がここに当てはまります。
ウイング
オフボールの動きから、キャッチから得点をクリエイトできるのが、ウイングです。キャッチアンドシュートでスリーポイントを打てたり、速攻の先頭として、リングに向かっていくような選手はここに該当します。
ビックマン
スクリーナーとしての役割やリムプロテクターとしての役割を果たすのがビックマンです。育成年代でリムプロテクターとしての役割を期待するのは、なかなか難しいので、スクリーナーとしての役割やリバウンドにしっかりと絡むことができる選手がここに当てはまります。
強みを最大化、弱みを最小化
強みを最大化
まずは身につけた武器を最大限に生かす戦術を考えます。
例えば、
- ボールハンドリングに長けた選手
- シューター
- スクリーナーとしての役割
の3選手がいれば、ピックアンドロールからズレを作り、スクリーナーやシューターを生かしたプレーを作ります。そういった形で自分のチームの強みを最大限に生かす戦術を作っていきます。
弱みを最小化する
チームの個々のそれぞれのスキルが全員同じなことはありません。
例えば、ハンドリングが未熟な選手に対して、ハンドラーとして、ピックアンドロールに参加させることは、得策ではありません。シュートがうまければ、コーナーに配置して、シューターとして生かしたり、ディフェンスで貢献をさせたりと戦術を考えます。
シュートが苦手であれば、スクリーナーとして生かしたり、相手が引いて守ってきたら、必ずドリブルハンドオフに行くなどとそこでできたズレを逆に生かすような戦術をとります。
終わりに
様々なバスケットボールの指導環境やチームの状況があります。選手個々の能力を最大限に高めることが、育成年代の最重要課題であると同時に少しでも長所を伸ばし、活躍する経験をすることで、バスケットボールの楽しさを教えることも指導者の役割であると考えています。
前提としてあるのは、
- 全員が世界を目指しているのではない
- 一流選手を目指しているわけでもない
- 中学生まで、高校生までとプレイする期間をあらかじめ決めている選手もいる
ということです。
それぞれの活動環境やチーム状況に合わせて、様々な指導ができるというのも指導者の1つの能力です。ぜひ今回の記事が参考になればと思います。